雑記

いち情報系大学生

特許審査の流れを勉強した(ざっくりまとめ)

前書き

「ITの道に進む人間として、知的財産まわりについて一度しっかり学んでおかなくてはならないなぁ」と数年前から思っていました。これまで中々機会が無かったのですが...ありがたいことについ先日大学院の授業としてそれらを学ぶことができました。今回はその中でも”特許”に関わる部分を(備忘録も兼ねて)記事にしたいと思います。

特許出願の手続き

特許が出願されてから登録されるまでの流れをざっくりと説明します。
参考:(特許庁HP) https://www.jpo.go.jp/system/basic/patent/index.html

         
①出願
②方式審査
③(実体)審査
④特許査定
⑤設定登録
         

書類を手直しする必要があったり拒絶審査を受けたりするとまたいろいろと複雑なのですが、全て順調に進んだ場合は上記の流れになります。①~⑤を簡単に説明します。

①出願
特許権を得るために必要な書類を特許庁へ提出する手続きです。この時必要となるのは「願書」「特許請求の範囲」「明細書」「要約書」「必要な図面」です(後述)

②方式審査
出願書類が、特許庁の定める要件を満たしているかを形式的にチェックする審査。

③(実体)審査
”特許審査”といって多くの人がイメージするであろう部分がここ。
出願された発明が特許になるかどうかを決める実質的な審査です

④特許査定
審査官が特許権の設定を許可することをいいます。
お金を払うことによって”⑤設定登録”に進むことができます。

⑤設定登録
特許庁の登録原簿に特許権の設定を登録することをいいます。
この時点で特許権が発生します。


出願書類

先ほどチラッと登場した出願書類についても説明します。特許法第36条 に基づき、特許出願の際は以下の書類を提出する必要があります。

1.願書(以下の情報を記載する必要がある)
 一. 特許出願人の氏名又は名称及び住所
 二. 発明者の氏名及び住所

2.明細書(以下の情報を記載する必要がある)
 一. 発明の名称
 二. 図面(後述)の簡単な説明
 三. 発明の詳細な説明

3.特許請求の範囲(請求項) 
 特許を取ることによって”何を独占したいか”を記載する。
 請求範囲を限定的にすれば権利としては弱く、
 逆に広範囲での請求が認められれば強い権利となります。
 
4.必要な図面(必要なければ添付する必要なし)
5.要約書

※ちなみにこうした出願書類は、弁理士の方を通じて作成するのが一般的です

出願書類に関しては、実物をみた方がイメージが掴みやすいと思います。特許情報プラットフォーム (J-PlatPat)では、出願された特許の情報を誰でも閲覧することができるようになっているので、興味がある人は一度調べてみるといいと思います。


審査について

ここでは特許審査がどのような基準で行われているのかをまとめます。これを理解することで「自分が特許を出願する際、それが拒絶されるか否かを判断しやすくなる」というメリットがあります(もちろん素人目線ですが...)

特許の審査は、(特許法第70条に基づき)願書に添付した「特許請求の範囲」をもとに行われます。判断基準の主なものとしては 「新規性」「進歩性」「産業上利用可能性」「記載要件」「先願要件」がありますが、それぞれの判断手法について以下に簡単にまとめます。


新規性の判断手法
審査対象となっている発明(本願発明)と、既存の発明(引用発明)を構成要件ごとに比較して同一か否か判断します。そして全ての構成要件が同一であった場合、新規性がないと判断されます。この際、本願発明の要件が引用発明の要件よりも上位の概念である場合は構成要件が同一であるとみなされます(例:家電製品は冷蔵庫の上位概念、電話は携帯電話の上位概念)

具体例
本願発明:令和2年1月1日に出願された発明であり、特許請求の範囲の請求項1に「キーボードのキーを入力すると、モデルを2Dから3Dに切り替えて表示を行うコンピュータ。」と記載されている。

引用発明1:令和1年6月1日発行の雑誌の記事に、「このモバイルコンピュータは、画面上のソフトウェアキーボードのファンクションキーF1を入力することにより、モデルを2Dから3Dに切り替えて表示を行うことが可能である。」と記載されている。

引用発明2:令和1年6月1日発行の雑誌の記事に、「このモバイルコンピュータは、画面上をタップすることにより、モデルを2Dから3Dに切り替えて表示を行うことが可能である。」と記載されている。

ケース1では、本願発明と引用発明は全ての構成要件が同一であるため新規性がありません。
f:id:unyamahiro:20210114143604p:plain

ケース2では、全ての構成要件が同一にはなっていないため新規性があると判断されます。
f:id:unyamahiro:20210114143950p:plain


進歩性の判断手法
まずは同一でない構成要件を(新規性の判断同様に)特定します。そしてそれらの構成要件について、引用発明からその技術分野の専門家が容易に本願発明の構成要件に該当するものに置き換えや組み合わせができると推測される場合は進歩性がないと判断されます。但しこれは専門的に高度な判断になるため 弁理士・弁護士等の法律の専門家に任せることになります。

具体例
f:id:unyamahiro:20210114143950p:plain

先ほどの"ケース2"で考えます。 コンピュータの専門家からすれば、画像をタップすることはデータを入力するアクションであり、またデータ入力のアクションとしてキーボードで キーを入力することもよく知られていることです。従って、画像をタップすることをキーボード入力に置き換えてみることは容易であり、進歩性はないと判断されます。

また上記の他にも、「出願するよりも先に論文を発表し、論文に出願した発明内容が開示されてしまっている」というケースなども進歩性がないと判断されます(例外あり)


産業上の利用可能性
特許法第29条には「産業上利用することができる発明をした者は特許を受けることができる。」と書かれています。ここに登場した発明という言葉ですが、実は法律で明確に「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。発明かそうで無いかという判断も意外と難しいのですが...ここでは扱いません。

では産業上利用できない発明とはどんなものを指すかということですが、いわゆる医療行為がこれに該当します。医療行為に特許権を付与してしまうと、医師が特許権侵害を恐れながら医療行為を行うようになってしまい、医療行為の円滑化を阻害してしまうという理由からです(医薬品などはまた別)


記載要件
端的にいうと、出願書類の中における発明の詳細について、その技術分野の専門家が発明を実施できる程度には明確に記載しなければならないことを規定しています。

先願要件
同じような発明が出願された場合は、先に出願した方が特許を取れます。


審査っぽいことをしてみた

実は、特許が出願されると公開広報という形で(未審査のものも含めて)内容は全て公開され、先ほど紹介したJ-PlatPatなどを通じて誰でも確認することができるようになります。

今回、大学院の授業のレポート課題として、未審査の公開広報から興味のあるものを1つピックアップして「新規性」と「進歩性」の有無について調べる機会があったので、その手順や所感を書いて記事をしめたいと思います(あくまでも素人目線で実施したものなので...選択した公開広報や得た結論については伏せておきます)

手順

①新規性と進歩性の調査にあたり必要そうなキーワードを(請求項を参考に)列挙

②新規性と進歩性の調査にあたり、必要そうな IPC,FI ,Fタームを列挙

③技術的に近いと思われる特許公開公報を網羅的に検索

④検索対象と、検索で発見した特許公開公報に記載されている発明と比較し、検索対象となる発明に新規性・進歩性があるかどうか判断して結論を記載

詳細

手順1.
特許を審査するにあたっては、調査対象と同様の発明が過去に行われていないかどうかを調べなくてはなりません。審査官は、過去の刊行物や特許などのありとあらゆる情報をもとにこれを判断しなくてはなりませんから、データベースで検索するためのキーワードが必要です。これを出願書類やその添付書類から抜き出す作業です。

手順2.
IPC,FI,Fタームというのは、いずれも特許を分類するための文字列のことです。一口に発明といっても、その発明がロボットに関するものなのか、食品の加工技術に関するものなのか、植物の育成方法に関するものなのか...主題は多岐に渡ります。それを階層構造とともに管理することによって、情報を扱いやすくしたり検索を高速化したりというのがこれらの3つのキーワードです。j-platpatから確認することができます。

手順3.
手順1,2で得たキーワードや分類結果に基づいて、近しい発明が無いかをデータベースで検索します。この時使用するのもJ-PlatPatで、非常に多くの情報を活用して検索することができます。
f:id:unyamahiro:20210114161932p:plain

適切なキーワード(の組み合わせ)を設定しないと膨大な件数がヒットしますが...それでは手順4が絶望的になります。得たい情報だけを的確に得られるキーワード選びには経験が必要だなと感じました。

手順4.
手順3で近しい発明をある程度リスト化できたら、それらの請求項を一つずつ比較することによって新規性や進歩性を確認します。非常に時間がかかりました。


所感
・今回は割と身近なテーマで考えてみましたが、深く調査をしていくにつれて専門的な知識がどんどん押し寄せてきて想像以上に手こずってしまい、思っていた以上に時間もかかってしまいました。もし背景知識が全く無いテーマで調査をはじめていたらと思うと恐ろしい...(そう考えると、特許庁の審査官の人たちすごい)

・J-PlatPatの「特許・実用新案検索」にてキーワード検索をした際、具体性の低いキーワードを2つ程度組み合わせて検索すると3000件以上ヒットしてしまい、日々の発明の多さに改めて驚くとともに、適切なキーワードを選ぶことの重要性を理解しました。

あとがき

知的財産管理という点において、特許以外にも色々な権利を常に気にしていなくてはなりません。IT業界ではさまざまな権利が絡んでくると思うので、就職するまでには、倫理観とかリテラシーとか...そのあたりをしっかりさせておきたい。